文和春秋

主に歴史や本についての徒然語り

司馬遷への恨み言

司馬遷と言えば、「史記」を著し、後の正史の基本となる紀伝体を確立した偉大な歴史家として、その業績を否定する方はいないかと思います。

ただ、個人的には… 大いなる敬意を持つと共に、それと同量くらいの負の感情があったりもします。

それはより端的に言えば、「省略するな!」という心からの恨み言です。

 

以前、私は酔狂で春秋~戦国期の諸国についてまとめた事があり、「春秋左氏伝」と比較しながら「史記」(特にそのうち「世家」)を利用したことがあるのですが、春秋の斉・晋・楚や戦国七雄らの列強国に比べ、司馬遷の数多の小国に対する記述の適当で興味なさげな事と言ったら!

歴代君主の名前だけでも羅列してくれるのはまだましな部類で、少なからぬ国が「弱小国で、詳述するにたる事績がない」「小国で列叙するに足りず、ここでは論及しない」「滅ぼされたものは枚挙に暇がないので、本書の伝記には著録しない」…といった省略という洗礼を浴びておりますので。

 

中国古代史家の宮崎市定氏が「司馬遷は政治より軍事を、小国より大国の事績を、地味より面白い話を好んだ」といった趣旨の事をどこかで書かれていたかと思いますが、まさにそういった彼の嗜好の直撃を、何度となく喰らってしまった衝撃は、今も遺恨と共に燻り続けております…