文和春秋

主に歴史や本についての徒然語り

司馬遷と裴松之

先に司馬遷への恨み言を述べましたが、そんな折にいつもふと思い浮かべる歴史家に、「三国志」に注を付けた裴松之という方がいます。

 

この方はこの方で、注記を見る限り几帳面でガチガチの儒者気質といった、かなりアクの強そうな方。

主君を変えて重用されたりといった自己基準で好ましくないと見なした人物には、注記でいちいちその行動にケチを付けたり大げさに非難したり、時には列伝の配列にまで文句を付けたりする上、引用史料にしても内容をでたらめと断じたり、筆が進んでか著者の人格攻撃にまで及ぶことすらあったりもします。

ただその気質によるのか、「でたらめな作り事で、つじつまが合わぬこと甚だしい」「学問に熟達した人なら問題としない書物である」などと評した史料でさえも、全て注記で引用した上で罵詈雑言を浴びせている点には… こちらにも解釈や考察の余地をきちんと残してくれているという点で、心からの感謝を捧げたいとも思います。

 

項羽を「本紀」に入れたり、例え孔子の言と伝えられている事であろうと、自分が違うと思えば異を唱える。

そんな司馬遷の自由でありながら芯の通った歴史観は十分敬意に値するのですが… 裴松之の様に、とは言わずとも、もう少し幅広く史料や事績を採録してくれていたらなあ、という思いも、消えることはないでしょう…